Taste of love  2月14日、街は家族連れや友人同士よりも男女の二人組みが多く見られる日。 何処の店でも丁寧に包装されたり、様々な形のチョコレートが並び甘い匂いを振りま いている。 どこもかしこも甘いムードに包まれている。  それを不思議そうに見つめる少女がいた。 水銀燈―――電柱の上にしゃがみ込み、街を行き交うカップルの様子を見ている。 「何かあるのかしらぁ?」と興味津々と言った様子だ。     ***     「あぁ、そういえば今日はバレンタインデーね」    今日あったことをめぐに話すと、窓際に腰かけた水銀燈にめぐは久しぶりに思い出 したように言った。   「バレンタインデー?」 「簡単に言えば好きな人にチョコレートを贈る日ってことかな?」 「チョコレート………ねぇ。私ちょっと出かけてくるわぁ」 「また来てね」     ***       チョコレート。好きな人に贈る日。 好きな人―――めぐ。 とりあえず街には来たものの、チョコレートを買う金銭など一文たりとも持っていな い。 それに自分みたいなのがチョコレートなどを買ったら怪しまれないだろうか。 そんな思いにかられ、とりあえず来た街から違うところへと移動する。 当てなどない。 それでも何かめぐへ贈れるものを何か探そうと、今度は郊外へと足を運ぶ。 何か綺麗な花でも咲いてれば贈れるかもしれないが、まだ寒さが残る季節。 早々簡単に見つかるものでもない。  気づけばもう街からはだいぶ外れた山まで来ており、遠くに街が見えるが足元はず っと道もない山が聳えている。   「うぅん………」    来過ぎたか。 そう思ったが、逆にこのような場所のほうが綺麗な花があるかもしれない。 日の当たる殆ど獣道のような山と山の合間の草原に降りると、ゆったりとした足取り で周りを散策し始める。 日が射しているのと程よく湿った環境のおかげで緑色に萌える草はあるが、花は見ら れない。 たまに小さな『いぬふぐり』があったが、それではいくら集めても大したものにはな りそうにない。 獣道を歩いていると、今まで山によって狭められていた視界が開け、大きな草原が姿 を現した。 草原は獣道よりも日当たりがよく、多くの草が茂っている。 そして、その中心には小さな梅の木が一本立っており、赤い花を咲かせていた。 小さいが花は活き活きとしており、その存在感をあらわにしている。   「これなら、めぐも喜ぶかしらぁ?」    手を伸ばして、枝を一本だけ折ると大切そうに抱え、空へと舞い上がる。 後は病院へ行ってめぐに渡すだけだ。 大切に胸に押し当てるようにして空を飛び、一直線にめぐの病院へと向かう。     ***      めぐの病室はいつ水銀燈が入ってきてもいいように窓が開けてあった。 それは水銀燈も分かっていることで、いつも通りに窓から入るとめぐを探した。 いつもならベッドに横になっていたりするのだが、今はめぐの姿は見られなかった。 検診にでも行ったのだろうか、それとも何かあったのか。 そんなことを考えると心が曇っていく。  だが、そんな不安は直ぐに消え去った。 めぐは水銀燈がおろおろとしていると、何食わぬ顔で病室へと戻ってきた。 水銀燈がいるのに気づくと、持っていた紙袋を咄嗟に後ろに隠した。   「水銀燈、来てたの?ごめんね。ちょっと、出てて」 「ん、いいの。それよりもコレ………あ、」    水銀燈はついさっき取ってきた梅の枝をめぐに渡そうとした。 しかし、急いで飛んできたせいか花びらは何枚か飛び散っており、さらにずっと抱く ように持っていたせいか、花は力なく垂れている。 「バレンタインデーだから、何かあげようと思ったの。でも、私何も出来なくて… やっと梅の花見つけたんだけど、急いで来たから………」 「それを………私に?」 「た、たまにはそれぐらいしてやらなくもないわぁ。でも、花、萎れちゃってる」    萎れた花を見つめながら、水銀燈は枝を握った。 目はウルウルと今にも泣き出しそうで、口元も震えていた。 『ごめんね』と水銀燈が必死に涙を我慢しながら震えた口を開くと、めぐはその花ご と水銀燈を思い切り抱きしめた。   「嬉しい」 「でも、」 「いいの。十分よ。私は水銀燈が私のためにそうしてくれたってことだけで、凄く嬉 しい」 「そうだ、私もね、水銀燈のためにチョコレート買ってきたの」    水銀燈抱き上げたままベッドに座らせると、隠していた紙袋を取り出した。 紙袋の中にはピンクのリボンで包まれた袋が。 中にはハートの形をした小さなチョコレートが沢山入っており、その一つ一つに 『LOVE』と書かれている。   「私もね、水銀燈に何か贈ろうと思って。でも、これぐらいしか病院には売ってなか ったの。安物だけど。私にはこれぐらいしか」 「うぅん、私だって」    水銀燈は袋に入ったチョコレートを一つ摘み上げて口へと運んだ。 何故か涙がこみ上げてくる。自然と笑みが零れてしまう。   「どう?」 「甘いわぁ。とっても、とっても」      バレンタインデー。 水銀燈とめぐが少しだけ愛の味を知った日。