シーソルトアイス      夕焼けだけが永久に存在し、夕焼けだけの存在が許される町、トワイライトタウン。 そのトワイライトタウンの中枢とも言える駅がある。  名をセントラルステーション。 ただの駅ではなく、その町のシンボル的存在であり、駅にしては高く設計され、 さらには目立つようなシルエットが模られている。 左右に鐘があり、それがいつも時刻を住人たちに知らせてくれていた。 セントラルステーションはトワイライトタウンの名所で、ロクサスたちはそこで 流行の『シーソルトアイス』を食べるのが日課であった。  この日も四人の影が伸び、『シーソルトアイス』片手にセントラルステーションの展望台に腰掛 夕陽を見ながら語らっていた。   「この味ってどうやってだしてるんだろうな?」    半分ほど食べ終わったシーソルトアイスを頬張りながら、ハイネがもごもごと言う。   「確かに、不思議な味だよね。しょっぱいんだけど、何故か甘い」    既に食べ終わってしまっているピンツがハイネの方を見た。   「じゃぁさ、この味をどうやって作るか試してみない?ねぇ、ロクサス」 「ん、あ、あぁっとっと!」    オレットがロクサスの顔を下から覗き込むようにして尋ねる。 意識が何処かへ漂ってしまっていたロクサスは急に間近に現れたオレットの顔に驚き、 手にしていたアイスを思わず落としそうになる。 なんとか棒の部分を掴む、溶け始めていたアイスを口の中へと放りこんだ。   「よし!じゃぁ決定!我々はこれより『シーソルトアイス研究会』を開く」 「何それ?」    誇らしげに立ち上がって宣誓するハイネに、ピンツは小馬鹿にするように笑った。 笑ってはいるもののピンツもその計画には賛成であり、『じゃぁ、何が必要かな』と 真剣そうに考え始めている。   「んー、やっぱり“ソルト”が入ってるから塩は必要じゃない?」    オレットが言って、ロクサスは残っているアイスをあむっと噛み付いた。 最初はしょっぱさが口を満たすが、それは次の瞬間には甘さへと変わっている。 “ソルト”というのだから、やはり塩は入っているのだろう。 じゃぁ、どうやればこの甘さに? ロクサスはアイスを加えたまま、考えだす。   「うーん。最初はしょっぱい。でも次は甘い」 「やっぱり、砂糖も必要だよね」    腕組して考えているロクサスにまたオレットが問いかける。 ずっと口にアイスを咥えたままにしていたせいで、返事をしようとすると口が回らず、 一度、唇を舌で温めて『だろうなぁ』と返答した。   「じゃぁさ、各自でこの味を再現できそうなものを持って、いつもの場所に集合ってのは?」    立ち上がったピンツが全員の顔を順番に見て『どう?』と提案する。 『それいいかもー』というオレットに『やってみるか!』とハイネ。   「おっ、それいいな」    最期まで味わって喉に通してから、ロクサスは言う。   「でも、それじゃぁ別のものが出来そうだね」 「確かに。ハイネとピンツだもんなぁ〜」    一度は少しの好奇心から良いと思ったのも、冷静なオレットの意見に、 ロクサスの考えはすぐにオレットの意見へと傾く。 ハイネとピンツだけの意見を聞いていると好奇心ばかりが揺れ動き、仕舞いには 豪いことになる場合が否めない。   「酷いなぁ。ハイネはともかく、僕は真剣だよ」 「ちょっと、お前ら!どうゆう扱いなんだよ俺は!」    怒ったように振舞うハイネに三人は笑って、『ちゃんと持ってこいよー』 とふざけ半分だが、一応釘を打った。  セントラルステーションの展望台から降りると、 四人は駅前で一旦解散すると、各自家へと戻り使えそうなものを漁りだした。   「母さーん。しょっぱいけど、甘い調味料ってある?」 「何言ってるのロクサス。そんなものあるわけないでしょう」 「だよなぁ」    台所で調味料を漁っていたロクサスだったが、母親の意見に『やっぱり無い』と、 分かっていたものを、確信にいたらせた。  もう一度、先ほど食べた『シーソルトアイス』の味を思い出し、 それに近いものを調味料の棚から取り出す。 塩に砂糖。それと菓子棚に入っていたラムネとドライフルーツの粉末。 これだけあれば十分だろうと、調味料と菓子を手提げバックに詰めると、いつも四人でいる、 路地裏の“いつもの場所”へと向かった。    いつもの場所には既に三人とも揃っており、『遅いぞ』と声をかけられると、 『悪い悪い』と軽く会釈して、ソファに腰掛けた。  仕切るのはいつもハイネの仕事であり、ハイネは腰掛けていた木箱から降りると、 中心に立って皆を見回した。   「さてと、では、皆が持ってきたものを拝見しよう」 「私は海水で作られた塩を持ってきたわ。 “シーソルトアイス”だから、海塩を使っているのかなと思ったの」    真ん中に置かれた木箱の上に海塩の入った小さな小瓶を置く。   「なるほど、流石オレット」 「えへへ」 「じゃぁ、次は僕。僕はとことん甘さに拘って色々持ってきたよ。 板チョコにフルーツキャンディ、それに市販のアイスキャンディー」    次々と乗せられていくお菓子。木箱はすぐに色とりどりのお菓子に占拠され、 置ける場所はごくわずかとなってしまった。   「じゃぁ、次。ロクサス」 「俺は………塩と砂糖と、後はラムネとドライフルーツの粉末」 「よし、じゃぁ作るか!」    そそくさと用意を始めるハイネにオレットが『ハイネは?』と尋ねると、 ハイネはそれを待っていたかのように口を開いた。 よく見ればハイネの後ろには何かが隠れており、ずっと出番を待っているようだった。   「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。 俺が持ってきたのは一番必要なもの。お前たちは気づかないだろうと思って、 ちゃーんと持ってきたんだからな」 「もったいぶらないで、早く見せろよ」    せかすロクサス。ピンツとオレットもちょっとしたサプライズを期待して、 ハイネに早く代物を出させるように急かす。   「じゃーん!これぞ、アイスに最も必要とされるものだ!」    取り出された大きな風呂敷。中には四角い箱のようなものが包まれいてる。 それが外されると中に入っていたのは氷の塊が大量に入った断熱材ボックスだった。 ボックスの蓋の部分にはには大きく達筆で『氷』と書かれている。   「これがなきゃアイスは始まらないだろう」 「なるほど。ハイネにしては考えたね」    出された氷を前にピンツは後頭部に両腕をつけてニヤニヤと笑う。 ハイネは『また人を馬鹿にして!』とピンツの胸に軽く拳を当てる。   「はいはい。じゃぁ、アイスを作るよ。 うーんと、どうやって作ろうか」    材料を一つ一つ手に取って、使えそうなものと使わないものを分けるオレットに、 ロクサスも交ざって材料をわける。   「ちょっと!提案したのは俺だぞ!かってに話を進めるなよ!」 「僕も僕も!」    ハイネとピンツが加わってお菓子などの材料を分ける。  オレットがあらかじめ用意して銀色のボールに、分けた材料を粉末にして注ぎ込む。 使えそうな海塩、ドライフルーツの粉末、ラムネ、フルーツキャンディを入れると、 次は熱湯をかけてそれらを溶かして混ぜ合わせる。 出来上がったものを試験管ほどの筒に流し込み、その上から棒を入れる。 そして、ハイネが用意した氷をたっぷり使ったボックスへ筒を入れてしばらく放置する。    数十分後。   「さーて、出来たかな?」    言いながら、ハイネがボックスの蓋を開ける。  それぞれが出来上がった『シーソルトアイスモドキ』を筒から抜く。 筒からはちゃんと凍ったアイスキャンディが姿を現し、棒にもしっかりと張り付いている。   「上手くいってるといいね」    出来上がったアイスをまじまじと見つめるオレット。 色も丁度ほんのりくすんだ青色をしており、凍り具合も悪くはなさそうだ。   「じゃぁ、皆一緒に」 「せーの」    パクリ。   「う〜ん………」    唸るハイネ。   「アイスとしての味は認められるけど」 「やっぱり」 「何処か違うんだよなぁ」    順にピンツ、オレット、ロクサスと言葉が連結する。   「やっぱり無理かぁ〜」  アイスを一口口にした後、ロクサスはため息交じりにながらぼやいた。     ***      セントラルステーションの展望台に伸びる四つの影。 相変わらずハイネ・ピンツ・オレット・ロクサスの四人はそこに腰掛けて、 片手に『シーソルトアイス』を持ち、口にその『しょっぱさと甘さ』の二つをかね揃えた、 不思議な味を味わいながら語らっていた。   「不思議だねー。この味」 「やっぱ、俺らが作れるほど甘いもんでもないか」 「おっ、いい掛け言葉だねぇ」    ハイネとピンツが少しいい気分になっていると、その傍らでオレットは呟いた。   「結局分からなくっても、こうやって皆で何かをするっていうのがとても楽しい。 いつか皆大人になる。だから、今のうちしかこうゆうこと出来ないもんね」 「あぁ。そうだね」    あむっと噛むとシーソルトアイスのあの不思議な味が口いっぱいに広がる。 ロクサスたちはきっとこの味を忘れないだろう。 この味には一緒に皆との消そうにも消せない温かい思い出が詰まっているのだから。